はじめに
がんは珍しくない病気になりましたが、膵神経内分泌腫瘍(panNEN)という病気は多くの方にとって聞き慣れないがんではないでしょうか。 医師から病名を聞かされても「ピンとこない」、「どんな病気かわからないからとても不安」、という方も少なくありません。適切な治療を受けるためには、まずpanNETという病気を知ることからはじめましょう。

神経内分泌腫瘍(NEN)とは?
神経内分泌腫瘍(NEN)とは、体内でホルモンなどを分泌する「内分泌細胞」にできるがんのことです。NENは内分泌細胞に腫瘍ができるため、その細胞が分泌するホルモンに特有の症状が現れることが多く、このようなタイプのものを機能性NENと呼びます。これに対し、そのような症状がみられないタイプのものを非機能性NENと呼びます。機能性NENには、さまざまなタイプがあります。

膵神経内分泌腫瘍(panNEN)とは?
NENのうち、特に膵臓の内分泌細胞にできるものを膵神経内分泌腫瘍といい、神経内分泌腫瘍をあらわすNENに、膵臓をあらわすpanをつけて、panNENと呼びます。膵臓の働きの1つは消化吸収です。もう1つの働きは、膵臓にあるランゲルハンス島でみられる、さまざまな内分泌細胞からのホルモン分泌のコントロールです。膵臓の内分泌細胞にできるpanNENは、膵臓の管(膵管)にできる膵がんとは異なるため、病気の経過や治療法なども変わってきます。

panNENの患者数
panNENは、膵がんに比べて圧倒的に患者数が少なく、珍しいがんとされてきましたが、NENについての認識が広がり、また診断技術の向上もあって、近年では患者数が増加しています。国内のpanNEN患者数を調べたデータによると、panNENと診断され診療を受けた方は、2005年と比べ2010年では約1.2倍に増加しました。また、患者数や新規発症率も、同様に増加していることが示されています。

NENの病理診断
NENは、腫瘍細胞の状態を病理学的に細かく観察することでさらに分類がなされ、治療の手だてとなります。その際に、細胞の形状と細胞の増殖する能力を示す指標が用いられます。
NENは、正常な細胞の状態に近い性質をもち、高分化型と呼ばれるNETと、細胞の増殖速度が高い傾向をもち、低分化型と呼ばれるNEC(神経内分泌癌)に分類されます。
細胞の増殖する能力を示す指標として、核分裂数とKi-67指数が用いられます。腫瘍組織の中に核分裂している細胞が多いほど、またKi-67という細胞の増殖に関与するタンパク質の割合が高いほど、腫瘍細胞が増殖していると考えられます。
このようにして、NENはNETのG1、G2、G3、そしてNEC G3に分類されます。

NETの治療
NETの治療には、手術、局所療法、薬物療法があります。
-
手術
NETの治療法の第一選択は手術(内視鏡切除、外科的切除)で、根治を望むことができる治療です。 NETの場合は、遠隔転移を有する場合(特に肝転移)でも、外科的切除は考慮されます。また、外科切除で腫瘍を全て取り切ることが困難な場合でも、減量手術による機能性症状の緩和や予後の延長が期待できる可能性もあります。
-
局所療法
NETでは腫瘍が肝臓に転移することが多く、肝臓に転移した腫瘍はすべて切除できないことがあります。その場合は、カテーテルを使って肝臓のがん細胞を死滅させたり、針を用いて腫瘍を焼く、ラジオ波焼灼術などの局所療法を行います。
-
薬物療法
近年、膵・消化管原発の神経内分泌腫瘍を中心に新たな薬物療法が開発され日本でも使用されています。
国立がん研究センター希少がんセンター 膵・消化管神経内分泌腫瘍
(https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/neuroendocrine_tumor_2/index.html)
切除不能のNETに対する薬物療法
ホルモン症状がある機能性NETに対しては、その症状を抑えることが必要です。NETではホルモンが過剰に分泌することによる症状に対して、抗ホルモン剤が用いられます。また、ホルモン症状の有無にかかわらず、腫瘍の増大を抑えることも大切で、抗ホルモン剤のほか、分子標的薬、細胞障害性抗がん剤などが用いられます。分子標的薬は、がん細胞の増殖や浸潤、転移に関わる分子を標的にしてその働きを抑えるもので、正常細胞へのダメージを少なくして、がん細胞により大きく作用するように工夫されています。


NETの肝転移に対する治療
panNETでは、肝転移の有無が予後に大きな影響を及ぼします1)。
肝転移がみられると、場合によっては、転移巣である肝切除術が行われることがあります2)。主な切除術に、肝部分切除、肝葉切除、腹腔鏡下肝切除術があります3)。
肝切除術を行うことが難しい場合、前述した薬物療法の適応となりますが、肝動脈塞栓療法(TAE)も行われることもあります1)。肝臓の腫瘍は、肝動脈から栄養を取り入れながら増殖していきます。TAEは、腫瘍が栄養を取り入れている動脈を塞ぐことで、腫瘍への栄養補給を断ち、その増殖を抑える治療法です2)。
1)日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS) 編: 膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン2019年第2版金原出版: 111, 124, 2019
2)国立がん研究センターがん情報サービス(https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/treatment.html)
3)一般社団法人 日本肝胆膵外科学会(http://www.jshbps.jp/modules/public/index.php?content_id=7)
