「がん」って何?
GIST(gastrointestinal stromal tumor; 消化管間質腫瘍)は、悪性腫瘍、つまり「がん」の仲間です。がんという言葉は日々あちこちで目にするようになりましたが、いったいどのようなものなのでしょうか。
私たちの身体を作り、その働きを支えているのは、37兆個1)もの細胞です。これらの細胞は一定のサイクルで新旧入れ替わりながら、生命の維持に必要な役割を果たしています。がん細胞は、こうした正常な細胞の遺伝子に傷がつくことがきっかけとなって発生します。その後、生活習慣や環境汚染などさまざまな要因が作用しながら、長い期間をかけて性質(たち)の悪いがん細胞へと変わっていくのです。
細胞ががん化すると、周囲の状況を無視して自分勝手な行動をとるようになります。正常な細胞は身体に合わせて分裂が制御されていますが、がん細胞はこの制御を無視してどんどん増え続け、周りの正常な組織に侵入していきます(浸潤)。さらに、血管やリンパ管を通って体のあちこちに移動し、そこで増殖(転移)をはじめることもあります。
こうした無法者ぶりこそが、がんが恐れられる本当の理由といえるでしょう。
1) Bianconi E. et al.: Annals of Human Biology 40(6) Nov-Dec: 463-471, 2013
GIST(消化管間質腫瘍)はどんな病気?
GISTは、胃や腸(消化管)の壁に発生する腫瘍です。消化管の壁の筋肉の層にある、特殊な細胞(カハール介在細胞の元になる細胞)が異常に増殖し、腫瘍を形成します。消化管であればどこの臓器でも発生する可能性がありますが、胃あるいは小腸で発見されるケースが多くを占めています1, 2)。
胃がんや大腸がんなどといった、いわゆる普通の消化器がんは消化管の粘膜から発生するのに対し、GISTは粘膜の下にある筋肉の層から発生するという大きな違いがあります。そのため、同じ消化管内の悪性腫瘍でも、消化器がんとGISTでは性質が異なっています3)。
1) 国立がん研究センター 希少がんセンター GIST(消化管間質腫瘍)(https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/GIST/index.html)
2) 日本癌治療学会 癌診療ガイドライン GIST 診療ガイドライン(第4版2022年)
「 病理診断 III.特殊なGIST Q and A Q6」 (http://www.jsco-cpg.jp/guideline/03.html#b_QA)
3) Corless CL. et al.: Annu Rev Pathol(3) :557-86, 2008
なぜGIST(消化管間質腫瘍)になるの?
GISTは、腫瘍細胞の細胞膜にあるKIT、あるいはPDGFRAというたんぱくの異常が主な原因で発生することがわかっています。正常なたんぱくは、必要に応じて特定の物質の刺激を受けたときにだけ細胞の増殖を促しますが、異常が起こると刺激がなくても増殖の合図を出し続けます。これを放置しておくと、腫瘍がどんどん成長してしまうことになるわけです1)。
またGISTは胃がんや大腸がんなどの普通の消化器がんに比べると、周囲の組織への浸潤(腫瘍細胞が正常細胞の間に侵入して混じり合うこと)があまり見られない傾向があり、本人や家族が「おかしい」と気づくような明らかな症状は現われにくいものです。そのため診断が遅れ、病気が進んでから発見されることも少なくありません2)。
1) Corless CL. et al.: Annu Rev Pathol(3) :557-86, 2008
2) 国立がん研究センター 希少がんセンター GIST(消化管間質腫瘍)(https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/GIST/index.html)
GIST(消化管間質腫瘍)はどうやって治療するの?
GIST の最も有効な治療法は、外科手術による病巣の切除です1)。ただし、再発・転移した場合や、手術ができない場合は、薬による治療を行います2,3)。GISTに対する治療薬として、分子標的薬が用いられています3)。分子標的薬はがんの増殖にかかわっているたんぱくを中心に働くため、正常な細胞に大きなダメージを与えにくい特徴があります。そのため、従来の抗がん剤とは違った副作用があらわれる可能性があります。再発・転移した場合や、手術ができないGISTの治療に有効とされている薬は、イマチニブです3)。また、イマチニブ抵抗性のGISTにはスニチニブ*が有効とされています3)。いずれの薬剤も、がん細胞の増殖過程における指令系統を分子レベルで阻止します4)。
1) 日本癌治療学会 癌診療ガイドライン GIST 診療ガイドライン(第4版2022年)
「 外科治療 I.手術の原則」(http://www.jsco-cpg.jp/guideline/03.html#gekachiryou)
2) 日本癌治療学会 癌診療ガイドライン GIST 診療ガイドライン(第4版2022年)
「 外科治療 IV.再発治療」(http://www.jsco-cpg.jp/guideline/03.html#gekachiryou)
3) 日本癌治療学会 癌診療ガイドライン GIST診療ガイドライン(第4版2022年)
「 内科治療」(http://jsco-cpg.jp/guideline/03.html#naikachiryou)
4) Gramza AW. et al.: Clin Cancer Res15(24) December 15:7510-7518, 2009
* スーテント®の正式な効能・効果は「イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍」です。
2023年2月作成 SUT47M001A